歴史社会:本を読んで

 『銃・病原菌・鉄』の上巻を読み終えて

あまりベストセラーと呼ばれているものは読まないタチなんですが、なぜか、この本は手にとりました。
日本びいきのことが書いてあるような前ぶりがあったからですし、人類の進化の「なぜ」に興味があったからでもあります。

上巻は、食が狩猟から農耕にどのように定着するようになったのか、そして、病原菌がなぜ発生したのかを紐解いています。
ざっくり要約すると、そもそものいわゆる文明の発祥地は肥沃三日月地帯、イラク、シリア、レバノン、イスラエル、パレスチナのあたりで、ここで狩猟生活をしていた原始時代(なにしろ、話しは紀元前数千年に遡る)の人々が農耕を主として生活をするようになったのがすべての始まりだと。それが緯度的に同様の気象(土壌)条件にある東へ、また西へ伸び、南北はそうではなかったため、独自に農耕に転換していた民族がそのまま廃れたり、狩猟生活から抜けられなかったり、独自の農耕を捨てたりした。
農耕に伴い、作業用の動物、あるいは食用にするための動物を飼う余力が生まれた。
飼える動物も、肥沃三日月地帯には多く存在したのが幸いしたけれど、そうした動物は集団を作る動物で、そこから病原菌が発生、人間に感染したことにより、世の中にペストや何やらが繁殖した。それに耐えられた人間が生き残り、その人間たちが海を超えて行ったことから、たとえば北アメリカにいた先住民の9割以上が病死することになったとか。
北アメリカのインディアンが移民の白人に滅ぼされたのは、実は主に麻疹のせいだったとは。もともと人数が少ないと思っていたのは大きな誤解で、ミシシッピには先住民のひとつの文化すら栄えていたそうです。

病気の話しで言えば、ニューギニアの高地民族は動物性タンパク質が少ない(それだけ動物を滅ぼしていた)ため人肉を食っていたそうな。そのため、致死性の笑い病に罹ったとか。その感染者の脳を触った子供がその手を舐めただけでも罹ったというから人肉食いは倫理的にというより、もろ危険なんですね。
その流れで、「羊たちの沈黙」のハンニバルが脳を料理して食べ、その脳を飛行機に同席していた子供に食べさせていたけど、病気にならなかったのか、どうでもいいけど心配してしまいました。

いずれにしても、狩猟民族か農耕民族か、それは選ばれたものという先入観がありましたが、この本で、もともとは狩猟だった(あたりまえか)が、余裕と条件が揃ったからこそ農耕できるようになった、なにせそこまでで数千年かかっている、と知れ、目からウロコの心境です。かつ、農耕民族は弱い者の先入観もありましたが、農耕により食に余裕ができたからこそ兵隊を持つことができた、だから農耕に移行できた民族が支配者になった、言われてみればあたりまえのことをようやく知ったものです。