歴史社会:本を読んで

 『容赦なき戦争』を読んで

ジョン・W・ダワー著 猿谷要監修・斎藤元一訳 平凡社ライブラリー

 

日本が世界を相手に勝てもしない戦争をしかけたのはなんだったんだろう、と常日ごろ思っていたところ、たまたま神田神保町で時間潰しに寄った『岩波ブックセンター』で、見つけたものです。

 

自分のお粗末な認識では、当時図に乗り始めた日本を石油輸出制限などで封じ込めたため、いたしかたなく戦争を始めたような印象がありました。
ところが、実態は、いわゆる『大東亜共栄圏』と銘打っていたところの英米からの自由独立なんかではなく、日本がアジアの主となって英米の代わりに植民地支配を目論んでいたというところで、そのために現地の人々を奴隷のように使役し、なおかつ死ぬに任せていたと。英米がアジアの人間を人間扱いしていなかったのと同じく日本も現地人を人間扱いしていなかった。奴隷ならまだしも、家畜だって死ぬまで働かされることはなかったのに、帝国軍隊はそれをしていたわけです。

 

当時の日本は神の子の国で、アジアを、ばかりか、世界を治める資格があると、本気で思っていたようです。ということは、もし日本とナチスドイツが勝っていたら、米ソ冷戦ではなく、日独冷戦になっていたのかも。

 

英米も、日本人を黄色い猿だと考えていたため、実際に真珠湾が襲われた時、信じられなかったらしい。猿にそんな計画性も、知恵もあるわけがない、と。日本を小馬鹿にした、また日本も、英米を実際は腑抜けと思っていたため、真珠湾を襲えばそれで萎えてしまうにちがいないと踏んだ結果、お互いに見誤っていたことで戦争が泥沼化したとも言えるようです。

 

また、日本は「咲いた花なら散るのは覚悟」と死への美意識があって、もちろん英米に捕まれば拷問と処刑しか待っていないとの思い込みもあって、民間人も含めてあたりまえに死ぬまで戦ったわけで、英米にすれば、信じられない戦い方で、そのために、逆に、英米側も日本人皆殺しを考えざるを得なかった、それが無差別の空襲や原子爆弾へとつながるわけで、お互いに容赦のない戦争をしていたということです。

 

妙な話、日本は自分たちをアジアの白人と思っていたようで、自分たちにも白人と同じ権利があって当然の認識があったらしい。もちろん、英米白人にしてみれば、日本人は黄色い猿以外の何者でもない、その黄色い猿が白人をとっちめたために、大いなる怒りを買った。
というのも、ナチスがいくらユダヤ人やスラブ人らをいたぶってもさして怒りを覚えていなかったのに、日本が東南アジアでイギリス軍やオーストラリア軍、アメリカ軍を破り、その捕虜に対し非道なことをしたというので、怒りを爆発させた・・・つまり、この戦争は人種間戦争であったというのが、著者の結論です。英米は、ナチスをこそ憎みはしたものの、ドイツ人自体を憎みはしなかった。が、日本人全体は大いなる憎しみの対象となった。

 

さて、この本を読んでいる時に、お隣中国が《新たな世界秩序》を標榜して、東南アジアにゴリ押ししたり、尖閣諸島を自国の領土と言ったり・・・なんか、かつての日本がしていたようなことを始めているように思えてなりません。
当時の日本が朝鮮を領土化したように、尖閣の次は沖縄がアメリカ軍基地を追い出した暁には中国が乗り込んできて、領土化する? 沖縄がアメリカを追い出そうという運動は中国が裏で糸を引いているような。
大量の国民に食わせるだけの海洋資源のある太平洋に出るには、日本ほど邪魔な国はなし。
アメリカも経済的な問題もあるにせよ、当時のように、黄色い猿相手にまともにやり合う気もない(大統領は白人だっけ?)現状がある。黄色い猿同士が殺し合うのに関わるのは馬鹿馬鹿しいだけだし。



中国はアジア支配をかつての清朝のように、朝貢があればいいとどこかで聞いていますが、相手が日本だとそんな甘いことにはならないでしょう。日本はいずれにしても、どこかから憎まれる存在のようです。
ちょっとしたことで大きな事態に発展しそうな気がするのは、わたしだけ?

 

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